7月に開催された生配信イベントでは、オーストラリアの老舗アコースティックギターブランド「Maton Guitars(メイトンギターズ)」の魅力やポテンシャルを、ソロギタリストの井草聖二さんをお迎えし、プロフェッショナルとしての視点から紐解きました。
今回は、メイトンギターズを長く愛用されている井草さんが感じる同ブランドの特徴や、自身の愛機のこだわりのセッティング、現在の愛機との出会いや他ブランドと比べたメイトンギターズの特性などに至るまで、アコースティックプレイヤーが聞きたかったことをハートマンギターズ・秋田が伺います。
さらに、記事の最後にはスペシャルなお知らせがございます!ぜひ最後までお読みください。
取材:秋田(ハートマンギターズ)
写真:池部楽器店
Maton Guitars(メイトンギターズ)とは
オーストラリア発のギターメーカー。独自の材料セレクトで、Queensland Mapleや、Blackwoodなどの、オーストラリア産の木材を多用し、個性的な楽器を製作しています。世界的なギタリストであるTommy Emmanuel、Joe Robinsonをはじめ、多くのアーティストが愛用しています。また、オリジナルのプリアンプを開発し、ステージ・パフォーマーで威力を発揮します。
─ 井草さんが思う、プレイヤー目線から見たメイトンギターのいいところは何ですか?
いいところはたくさんありますが、まずは「ラインのサウンドが優秀」という部分です。ソロギターのライブでは長いと2時間くらいライブをしますが、音が悪いとその時点で台無しになってしまうスタイルですので、安心していい音をお届けできるという点がすごく魅力的だと思います。
10年以上メイトンを使っていますが機材トラブルもありませんし、そういった意味でも「プロフェッショナルな機材」としてすごく安心感があるなと思います。
もうひとつすごくいいなと思っているのは、このプレアビリティですね。ものすごく弾きやすい。特にハイポジションでの操作性の良さが、このメイトンギターの魅力の一つかなと思います。
─ 機材のトラブルが少ないと感じる部分は何ですか?
デュアル・ピックアップ・システム(2系統のピックアップをブレンドして使用するピックアップ)は少し複雑なので、片方だけ音が出なくなるということもあったんですが、僕のメイトンギターに関しては本当にそういったことがありません。
あと、一度ライブ会場に行っている途中に、ギターを背負っている背中からコケてしまってギターが倒れてしまったことがあったんですけど、その時も問題なく音が出たので、これは何があっても大丈夫なんだなと。保証はしませんが、背中から倒れて僕の体がギターの上に乗っかっても、僕の場合は大丈夫でした 笑。
─ プレアビリティの高さや優れた演奏性については、店頭でも「メイトンギターって弾きやすいね」と言われます。井草さんは具体的にどういう点で弾きやすいと感じていらっしゃいますか?
1つはですね、テンション感が少し緩く感じるんです。というのは、ヘッドの角度が若干、一般的なギターよりも浅いので実際のテンション感がすごく柔らかく感じますね。それによって、バレー・コードといったずっとホールドしなければいけない時にもすごく弾きやすいフィーリングを与えてくれます。
ネックも結構薄めですごく握りやすいですね。でもナット幅はしっかりあるので、フィンガー奏法でもしっかりと弾き心地が確保されているイメージだと思います。ナット幅が広過ぎても左手がしんどいですし、狭すぎると今度は細かいことをした時に右手が当たってしまうというところ悩みがつきものですから。
あと、メイトンはネックの裏側がすごく平らになっているイメージです。いわゆる「V」ではなく(かまぼこ型の頂点が少し落ちたような感じで)平らになっているので、例えばバレー・コードの時のポジショニングや親指の位置などがしっかりとハマりますね。プラスやグリップもすごく握りやすいんですよね。
そこまで細いネックではないのですが、実際の親指の掛かり方などを見ても、これはすごく「考えられてる」ネックだなと思いますね。
─ 実際に現場で使用されているメイトンギターのプリアンプのセッティングはどうなっていますか?
普段はトレブルはちょっとだけ下げて、ベースは少しだけ上げています。ミドルは基本は真ん中ですが、曲によって、例えばバラードやジャズの曲だと少しだけ上げています。ストローク中心の曲になると、ミドルはほんの少しだけカットしています。これは本当に微調整の範囲ですが、そういう具合に動かしてますね。
ピエゾは、だいたい2時から3時ぐらいの方向に調整していますが、実はマイクはあまり上げていなくて9時から10時ぐらいですね。ですので、3割から4割ぐらいブレンドしているセッティングが僕の中でデフォルトになっています。
─ 実際に聴かせて頂くとめちゃくちゃいい音ですね。メロディの押し出しが強いというか、メロウなところが感じられるセッティングです。
どちらかというと、シャリっとしたサウンドというよりは、メロディの中音域がしっかり抜けるようなセッティングですね。
─ もし井草さんが、メイトンカスタムショップにオーダーするとしたらどんな仕様にしたいですか?
夢がある質問ですね。僕がもしオーダーするとしたら、今持っているこのドレッドノートのサイズで、ちょっとボディサイズをシン・ライン(薄いボディ)にしてもらって、マテリアル自体はスプルース・トップにブラックウッド・サイドバックで、今使用している70周年モデルと変わらないような仕様でオーダーしたいなと思います。
─ シン・ラインにする=ボディを薄くするのはどういう理由からでしょうか?
メイトンギターに808の胴厚を少し薄くしたようなボディの「パフォーマー」というシリーズがあって、それがすごく弾きやすくて体にフィットしていたので、ドレッドノートサイズでそういうギターがあると、体にもしっかりフィットして、なおかつそのドレッドの音域の広さというのも感じられるんじゃないかな、と、今ちょっと妄想してしまいました 笑。
ボディ幅(厚み)があった方が、低音のふくよかさが出るんですけど、ライブの状況を考えると、よりフィット感があるギターでなおかつドレッドノートが欲しいという、欲張り仕様な感じですね 笑。
<秋田メモ>
ドレッドノートと言えば分厚いボディで、どっぷりとしたギターというイメージが固定概念としてあったので、薄いボディのドレッドの発想はかなり斬新に感じました。
サウンドにおいても、人によってはもっさりしてしまい使いづらいと感じるドレッドノートのサウンドが、レスポンスが良くなり、且つレンジ感は広いままだったら…今一番人気の808の存在を脅かすほどに人気機種になるかもしれない…そう考えるととてもワクワクしました!!
倍音は逆に出すぎなくて全体的なサウンドバランスも取りやすいのでは無いでしょうか…次なるブレイクスルーの予感…!!
─ ちょっとメイトンとは離れますが、「ギター上達に1番大切なことを教えてください」という質問を頂きました。
「練習と思って取り組まない」ということが、すごく重要なポイントと思っています。
「よし練習しよう」って思うと、なんだか嫌なことみたいなイメージになってしまうので、それよりちょっとゲームしようみたいな感覚で「遊び」としてギターを弾くということを、まず「習慣」として身に付けてもらうと自然に弾く機会もどんどん増えていき上達に繋がると思いますね。
あんまり仰々しく構えないで、「よし、やるぞっ」という感じよりは、「日常にしてしまう」というのが僕は上達する上でのポイントになると思います。
特にギターをはじめて最初の頃は、弾く時間=上達みたいなところもあったりしますので、そうやって弾く時間をどんどん確保してもらった方が効率的な練習になるのかなと思います。
─ MartinやGibsonといった、いわゆるアメリカン・ギターと、オーストラリア製のメイトンギターではどういう違いが感じられますか?
やはりメイトンギターはドライ、「乾いた音」という印象を受けます。Gibsonなどもすごく乾いたサウンドというイメージが強いと思うんですが、それとはまた質が違う乾いたサウンドがするんですよね。
サスティーンも、スーっと伸びるというより、一度ピークがきてそこから下がっていくような印象なので、ストロークをしても指で弾いてもどちらもすごく押し出しが強い「パーカッシブな音」というのが、このメイトンギターの特徴かなと思っています。
メイトンギターのストリング・ヒット(※)という「チャッ」という音は、本当にこのメーカーしか出ない音ですね。普通はもう少しモコっとした音がするんですけど、このギターはドラムスネアのリムショットに近いような質感の音が出るので、バッキングの時でもバック・ビートがしっかりして、ドラムで聴いているようなサウンドになるのがすごく特徴的だと思いますね。
※ストリング・ヒット:サム(指)ヒットともいう、主に親指で低音弦を叩くように音を出す奏法。楽曲にドラムスネアのようなリズムを生み出すことができる。
─ プリアンプを作る側の方から質問です。「井草さんは、(メーカーの)サウンドカラーがあるプリアンプとナチュラルなプリアンプだと、どちらがお好みでしょうか?」
僕はナチュラルなプリアンプがすごく好きですね。ベーシックはナチュラルだけど、EQの効きもしっかりしていて、カラーも付けられるっていうプリアンプが操作的には使いやすいかなと思っています。
─ メイトンギターは、どういったD.I.(※)と合わせるのがオススメですか?
難しい質問ですね 笑。個人的には、フラットな特性を持っているD.I.との相性がいいかのな…と思いますね。
D.I.は、結構色付けされているものもあったりして、ミドルがしっかりしているものがあったり、割とドンシャリ気味なものがあったり色々あるんですけど、なるべく特性がフラットなものを選んでもらうと、このメイトンギターの魅力がしっかり出ると思いますね。
※D.I.:楽器の音を直接ミキサーやインターフェイスに接続するためのインピーダンス変換器のこと。ダイレクト・インジェクション・ボックスを略して「D.I.」。
─ 井草さんが初めてメイトンギターと出会った時のエピソードを教えてください。
おそらく、2005年のトミー・エマニュエル(※)の初日本公演に見に行った時に、初めて生でそのメイトンの音を聴いたのが最初だったかなと思います。
実際に自分でメイトンを手に入れたのは、2009年の1stアルバム「Introduction」を出す時に、収録するためのメインギターとしてEBG808Cを手に入れたのが最初でした。
※トミー・エマニュエル:オーストラリア・ニューサウスウェールズ州出身の「フィンガーピッキングの達人」と称される名ギタリスト。
─ やはり、トミー・エマニュエルさんがきっかけで入られる方は多い印象でしょうか?
あのスタイルと、ライブでの音を聴いて感動してという方はかなり多いと思います。
─ 最初のメイトン EBG808Cから、どのような経緯で現在の70thドレッドノートに出会ったのでしょう?
最初にEBG808Cを使っていて、そのあとは通常ラインのトミー・エマニュエル/シグネイチャーのEBG808TEを使っていたんです。なので、808を2本、なおかつ定番の艶消しフィニッシュのギターを使っていました。
ある時、今日のイベントタイトルでもある「Feel the Maton Guitar」というイベントで、色々なギターを弾き比べをしている時に、70周年モデルの発売直後ぐらいだったので70周年のドレッドノートがあったので実際に弾いてみたら「あ、この音すごく好みだ」「なんか自分のギターより好きだ」ってなっちゃって、そこで買い換えました。
本当に、最初のチューニングをして曲を弾き始めた時に、「ああ、この音だ」ってなったんですよね。本番中に「あ、これだ」って 笑。
ラインの音でもすごく分厚くて、なおかつ爽やかさもあり、ドレッドノートの音ってすごい素敵だなあっていう風に思いました。
─ 井草さんが感じる通常モデル、スタンダードなモデルと、通常モデル/レギュラーラインナップのフラッグシップであるメサイアと、カスタムショップとの違いを教えてください。
まずメサイア(Messiah)とレギュラーの違いですね。同じそのラインの中の最上位機種と通常ラインということなんですけれども、全然そのサウンドの方向性は違いますね。
やはりフラッグシップであるメサイアの方がすごくレンジ感が広くて、808であっても通常の808よりはその低音や高音の出方がもう少しレンジの幅が広いような印象を受けますね。
カスタムショップでメサイアと同じ様なマテリアルがあると思うんですけど、それを弾き比べた時に僕は正直あまり違いが分からなくてですね。でも、通常モデルの808とカスタムショップの808はすごく違いがはっきりと分かりましたね。
カスタムショップってサウンドにすごく独特な粘りがあるんですよ。重量も少しレギュラーよりは軽く作ってあるからか、特にプレーン弦とかを弾いた時にサスティーンが下がるんですけど、そこから粘って伸びていくのがすごく独特だと思っています。
そして、先ほどお話しした「ピークがあって、サスティーンがある」というところの「ピーク」にもちょっと粘りがあるんですよね。ちょっと長めに「ガン」ってくるような、そこがよりソロギタリストにとっては合う人も多いのかなと思ったりしますね。
プレイアビリティに関しては、通常ラインよりもさらに弾きやすいイメージを受けましたね。それこそ、1.3~1.4ミリみたいなありえないような弦高のセッティングでも音が潰れるということもなかったので、そういう部分はカスタムショップの有利なところかなと思いますね。
どちらが優れている、ということではなく好みで選んでもらった方がいいのかなと思います。
─ トミー・エマニュエルは、ネックをあえて若干逆反りにするみたいですが、井草さんはいかがでしょうか?
僕もまさにそのセッティングに近いですね。逆反りとまでは行かないんですけど、ネックはほぼ真っ直ぐにセッティングしていて、結構高めのサドルをつけているんですよね。なので、弦の角度はすごく付いているようなサドルですね。
弦高を下げるというと、普通サドルを削って調整するんですけど、それよりもネックを真っ直ぐにして、サドルを高めのセッティングにする方法が僕の中で合ってるかなと思っています。
昔、ジョー・ロビンソン(※)というオーストラリアのギタリストの方とちょっとツアーを回らせてもらった時に、彼のメイトンギターを見せてもらったんですけど、結構サドルが高いなと思って。ネックを見ると、かなり真っ直ぐ気味だったんです。サウンドにはめちゃくちゃ芯があって、でもプレイアビリティは高い。そこですごく影響を受けましたね。
※ジョー・ロビンソン:オーストラリア・ニューサウスウェールズ州出身のギタリスト。トミー・エマニュエルの愛弟子であり、アコ―スティックギターやエレキギターを自在に操り、メロディとコードの同時演奏などの高度なテクニックで人気を博している。
<秋田メモ>
井草さんの弦高の設定値は、6弦側が約2.5㎜、1弦側が2約㎜という、ごくごく一般的な数値で設定されていました。
ただ仰っていた通り、ネックがド真っすぐで弦の角度はかなりついており、抱えてパット手元を見たときは意外と弦高高いな…という印象でした。
しかし、実際に弾いてみるとかなり弾きやすいのです。それにサウンドも太く、遠く真っすぐに音が飛んでいくような、とても気持ちのいいセッティングでした。
ここからわかるように、プレイアビリティというのは単純に弦高の設定値だけでなく、ネックの角度、ネックの反り、サドル高、etc…複合的な要素が相まって完成するものなのです。
それによって弾きやすさだけでなく、サウンドバランスも大きく変わってきますので、その辺りのセットアップも是非お気軽にご相談して頂きたいです!
9月24日(金)21時より、Feel The Maton 井草聖二オンラインライブ特別編集版のプレミア公開が決定!
世界を股に掛けて活躍するソロギタリスト、井草聖二さんによる貴重な生配信ライブの特別編集版をプレミア公開でお届けします。多彩なテクニックを駆使したフィンガーピッキングの妙技をお楽しみください。
放送日時
2021年9月24日(金)21:00(予定)
放送:IKEBE YouTube Channel(視聴無料)
※チャンネル登録&リマインダー登録もよろしくお願いします!
メイトンのアコースティックギターがハートマンギターズに入荷中!
MATON
PERFORMER
ウッドマテリアルにはオーストラリア製のギターらしく、ブンヤ材をトップにクイーンズランドメイプルのサイド&バック、ネックにもクイーンズランドメイプルで指板&ブリッジはパーフェロウとなっており、装飾系もシンプルで、塗装の仕上げもサテンフィニッシュとなっておりますが、メイトンオリジナルAP-Micピックアップ・システムを搭載や演奏性の高いスタイルなど、メイトンの中では比較的にお手頃ながらも、メイトンらしさをシッカリと持ったモデルとなっております。
MATON
EBG808C TE Tommy Emmanuel Signature
AAAグレードのシトカ・スプルーストップ、オーストラリア原産のクイーンズ・ランド・メイプルサイド&バック、エボニー指板&ブリッジのウッドマテリアルで、サテン・フィニッシュ仕上げです。
ボディー幅は14-1/4と000と00の中間サイズに4-3/4の深胴ボディとなっており、抱え易い小柄なボディでありながらもしっかりと中低音が伸びる気持ち良いサウンド!フラットピックからフィンガースタイル迄、心地良いピッキングレスポンスが味わえるギターです!
アーティストプロフィール
井草聖二(Seiji Igusa)
牧師家庭に生まれ幼少より讃美歌、ゴスペルに親しむ。
11歳でドラム、15歳よりギターを始める。
2009年 アコースティックギターの全国大会FINGER PICKING DAY2009に出場
「最優秀賞」「オリジナルアレンジ賞」を受賞。
20歳でギタリストとして活動を始めファーストミニアルバム「introduction」リリース。
2009年 Tommy Emmanuel ジャパンツアーでオープニングアクトを努める。
2010年 米カンザス州で開催された世界規模のギターコンテスト、39th Walnut Valley Festival に日本代表で出場。Top5に選ばれる。
2014年にギターデュオ『SOUL GAUGE』でKADOKAWAメディアファクトリーよりデビュー。
雑誌「Acoustic Guitar Book Presents Solo Guitar Special」では、アコギ・シーンを牽引する若手ソロギタリスト4人の1人として紹介される。
2015年から韓国や中国など海外での演奏活動を開始。2019年 中国ツアーでは1ヶ月、全15都市を巡るツアーを開催。
多様なテクニックを取り入れた緻密なフィンガーピッキング奏法の楽曲、演奏スタイルで国内外で高い評価を受けている。
YouTubeのチャンネル再生回数は1600万回を超え、インスタグラムのフォロワーは28万人を突破。
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