「RCサクセション」の結成から55年。その短くはない年月を経た2023年現在も、当時をリアルタイムで追い続けた世代から後年に楽曲や作品を通して氏を知った世代まで聴衆を魅了しつづけ、幅広い世代から熱いリスペクトを受ける “ザ・キング・オブ・ロック” 忌野清志郎さん。
忌野清志郎&NICE MIDDLE with NEW BLUE DAY HORNSを率いての本格的なソロ活動開始となった2003年8月の日比谷野外大音楽堂公演から、『奇跡』を目撃した2008年2月開催のライブ「忌野清志郎 完全復活祭 日本武道館」までを写心に納めつづけた西村彩子さんに、撮影当時のお話から今展示の内容に関して伺いました。
インタビュー&撮影:池部楽器店
この中だと一番最初に撮影したのは、この“ザ・清志郎”っていう写心ですかね。映画(忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー The FILM #1 入門編)のポスターに使用する写心を選ぶ際も、満場一致でこれになったそうなんです。衣裳はもちろんですけど、このマイクの(コードの)カーブと握っている感じが“ザ・清志郎”ということで選んでいただいたんですけど。今見る限り…この日の中でもジャケットを脱いでいないのでこれが一番最初だと思います。Tシャツに使用することになったので展示からは外しかけたんですけど、でもやっぱり戻しました 笑。これは額装であることがいいかなぁと思って。
今回は有賀さんと一緒にやるということで、最初はそれぞれ15枚という予定だったんですけど実は17枚あるんですね。先に有賀さんが展示する写心が提示されていて“RCサクセションな清志郎!”っていうのがたくさんある中で、わたしの写真の中にはあんまりそういう“尖った清志郎”っていうものが少なくて。ライブ写心しか無いですし。
わたしはこの窓際に展示したアコギの写真がすごく好きです。この清志郎さんの肉感と表情に清志郎さん自身を見るけど、同時に清志郎さんの目に映っているものを想像します。この写心を見て「清志郎さんは何を見ているのかな?何を思ってるのかな?』みたいな、そんな内側を想像させる表情がわたしは好きで。いわゆる“ザ・清志郎!”というものを全部外す気は無いけど、いい意味で、“清志郎”というよりは“清志郎さん”な写真を選びました。仕事以外で見る時や子どものころのイメージは“清志郎!”なんですけど、お会いしていると“清志郎さん”。今回の展示は仕事でお会いした“清志郎さん”を選びました。見る人が見るとこの「ガッタガッタ」のような、ライブを観たことがある人には分かるシーンも多く、見る人が見たら何を歌っているところかまで分かるものもあるんですよね。有賀さんとお揃いの『スローバラード』とか◎
─ 昨日有賀さんにお話を伺った際に、西村さんがこの写真を持ってきてシンクロが起こっていると仰っていて。
びっくりするくらいシンクロしてますよね 笑。
─ そのことに対して有賀さんも「これはいい」って仰ってて。実は展示の準備をしている時は、この位置に来たのは偶然で。
思い出しますね。写心の位置を何度も変えたり、あと2センチ下!とかいってフックを二つ引っ掛けたり 笑。
─ 偶然置かれていったものが、高さも位置も合っていったというのが印象的で。あのRCサクセションの『スローバラード』の写真が1987年なので、それから27年後の『スローバラード』なんだそうです。
笑。わたしの撮った『スローバラード』は2004年だと思います。でも27年の時を経てここで並んでる。あの有賀さんのモノクロのアップ、すごくカッコいいなぁって思ってるんですけど、やっぱりほぼ同じ位置に反対向きに歌ってるアップのわたしの写心があるんです。すごく若いころの清志郎さんと公のラストの清志郎さんの歌っている姿、この間に流れている時間って云うものがあって。
─ どちらも“ザ・清志郎”というパフォーマンスでいいなぁと。
清志郎さんって今でこそ“忌野清志郎”っていうイメージがありますけど、その当時は全てが突拍子も無かったと思うんです。ザ・タイマーズ(※)とかが公に出るわけですから 笑。
※ザ・タイマーズ:忌野清志郎に“よく似ている人物”ZERRYが率いる4人組の覆面バンド。忌野の代表曲の一つ『デイ・ドリーム・ビリーバー』は、モンキーズの「デイドリーム」を日本語カバーしたザ・タイマーズのデビューシングル。
─ 放送局は大騒ぎだったと聞きました 笑。
何をやっても“忌野清志郎”というキャラクターにハメれることが前提にあって、清志郎さんとしても“栗原清志”ではなくて、“忌野清志郎”というスイッチが入っていれば何をしても“忌野清志郎”だったんでしょうね。そこに至るまでは相当たいへんだったとは思うんですけど。写真を選んだ基準は、シーンの音の聴こえそうな勢いのあるものはもちろん、垣間見える素っぽい表情なこと。ちょっと少年みたいだったり 笑。メンバーがライブの最後に横並びする写心は、完全復活祭(※)の方がCHABOさんが写っていてレア感もあるんでしょうけど、武道館なので距離があるんですよね。でもこのメンバーショットは野音(※)なので、このすごく楽しそうな清志郎さんの顔がはっきり見えていいなぁって。見てください、この三宅(伸治)さんの楽しそうな顔 笑。そしてかわいい清志郎さん。
※完全復活祭:2008年2月10日、日本武道館にて開催されたライブ『忌野清志郎 完全復活祭』。以降、本格的に活動を再開した。
※野音:2003年8月17日、日比谷野外音楽堂で開催された『忌野清志郎「WANTED」LIVE at 日比谷野外大音楽堂』。
─ 客席を見ている眼差しも写真だとしっかり分かりますね。
そうですね、勝手な想像ではありますけど。写心って本を読んでいるような感じですよね。何度も好きな場面に戻って、読んで、その文字は漢字なのかカタカナなのか考えながら読む、そんな感じにすごく似ている氣がします。
─ 本で言うと行間を読む感じに近い部分もありますね。
そうですね。写真ってある一部分を誇張したりできてしまうモノ。(そうではないのに)悪人顔の写真が事件の時に載るのと一緒で、間違えると嫌な顔を残すこともできてしまう。この直後に目をつぶる一瞬はしかめっ面かもしれないし、(そういった写真は)選ばないというのももちろんですけど、カメラマンとして撮る時に「常にこの人がこの世で一番美しい」と思って撮っています。そういう感覚持って狙っていかないと残っちゃう写心が違うものになっちゃいます。前に若いミュージシャンの子にアガリを見せた時に「この自分を見て、何の歌を歌って、どんなお客さんが見えてたのかを思い出す」って話していて。なるほど、立ち位置が変わればそんな見え方するんだなぁって、自分の写心なのに新鮮でした。
わたし仕事でご一緒した方とプライベートに仲良くなるのがあんまり好きじゃないんですね。背景知りすぎるとシャッターを押すのが申し訳なくなったり、客観的じゃなくなって新鮮さも見つけにくくなるので。
─ なるほど。向き合い方があるんですね。この額装についても伺ってもいいですか。
そう!(忘れてた!)聞いてくださってありがとうございます!この額はオートクチュールです。とても空気の美しい(長野県)大鹿村の、旦那さんが切った栗の木です。「栗原さん」なので栗の木 笑。デザインは自分でして村の木工職人さんに形にしてもらいました。裏面はつるつるなんですけど、表面は切ったものにわざと鋸目をつけて残してざらざらにしてるんです。この手触り感が…あたしの中で清志郎さんがつるつるな質感(のイメージ)じゃなかったんです。塗装はわたしがしました。真っ黒ではなくて、カーボンブラックっていう墨っぽいブラック。あと、この金が一本入るのは、わたしの中で「華やかさ」と「リスペクト」。飾った日のことはすごく印象的で、展示準備の時に有賀さんが年代の並びや展示の意図を説明してくださって、(お互いの写心が)見合ってる感じというか、この有賀さんの写心との対比がすごく好き。そこに至るまでは何度も掛けたり外したりあっちに行ったり4時間くらい。何点か使わず外れるかもしれないけれど、わたしの中で見せたいなという写心を選ぶとことまで選びきってから設営に来て、あとはその設営の時にいてくださったみなさんと、その場で見えるバランスで選んでいく。結局用意した写真は1枚だけ外しただけでなんとか飾ることが出来ました。あの飾り終えた時、あぁもうどこも直すところは無いなぁと心から思ったんです。有賀さんが投げた「西村さん、どう?」っていうボールを受け止めれた氣がして嬉しくなりました。音楽が大好きで詳しくて少年みたいな有賀さんと、芸能自体には興味がない人好きなわたしで見ている目線も違えば、いい意味で補い合えるのがいいなと思ってます。そしてあの日、設営を手伝ってくださったイケシブのみなさんはマジに「神」でした。
─ いやいや 笑。
「イケシブのスタッフ最高」と思って帰りました 笑。
─ 今回、有賀さんが西村さんと一緒にやるということで、枚数も絞られたのもありますけど、そのおかげで選ぶ写真も決めることができたというお話をされていて。
分かります。すごく。
─ この壁面全部だとしたら、もっと違うセレクトにもなっていたと思うんです。
あと10枚あったら、この中に一本通したストーリーは変わったでしょうね。たぶん入れるとなると梅津(和時)さんとのツーショットとか、あとは引きの画ですかね。完全復活祭って360度お客さんが入ってたし、360度の二階席の一番上に通路があるんですけど、そこの柵に番号のシールが貼ってあってそこに立ち見席があったんですよ。スタッフの方が、やっぱり大変な時期に清志郎さんのことを応援してくれているファンを一人でも多く入れたいということで。あんなに上の上の立ち見席まで全員がステージに声援を送っているライブは観たことが無いです。そういう意味では引きの画は入れてあげたかったかもなぁ。
─ 清志郎さんっていい意味でイメージ化、パブリックイメージというものがありますよね。
うん。若い子は『デイ・ドリーム・ビリーバー』はもともと清志郎さんの曲って思ってる子も多いんじゃないかな。
─ CMで流れていたのもあって、日本語詞のカバーとは知らない人もいると思います。僕の世代(30代)はバラエティ番組や映画などのイメージも強いので。
先日、ダイナマイト☆ナオキさんがリスペクトライブで「よォーこそ」のMCをやっていて、わたし的にはすごくおもしろかったんですけど、清志郎さんのライブを観たことが無い人は分かりにくいと思うんですね。あれはメンバー紹介とかで繋ぐ部分もあって、メンバーとグダグダなったりしても「よォーこそ」でまとめるんですが、ダイナマイト☆ナオキさんのステージでもそのグダグダな感じが「最高に清志郎」って思って 笑。いらっしゃるお客さんは清志郎さんに詳しくない方、1、2曲は知ってるかな、と云う人も多いのですが、実は「忌野清志郎」ってイメージはバラバラだし知らないこともいっぱいのミュージシャンだし。バリバリのミュージシャンから入ってもその音楽の奥の世界も広い人ですよね。なんともつかみどころの無い方だなぁ、とも思います。
─ はい。
このカラーとモノクロっていう対比もよかったな。有賀さんとの写心はお互いが引き立てあっていて。(写心が)ケンカしていなくてすごく素敵だと思います。あとこのCHABOさんとのまだ世に出てなかったこの写心はやっぱりいいな。
─ いいですよね。ローリング・ストーンズとか好きだったりすると、やはりあの光景はいいなって思います。
出せてはいないんですけど、CHABOさんがギターを弾いているところに、清志郎さんが肩に肘を置いて二人が笑ってる写心もあって。
─ いつか見たいですね。あと最後の写真なんですが、あの敬礼ですよね。
そうです。最後にメンバーみんなでの挨拶が終わって袖にはける時のもの。当時のデジタルカメラのタイムラグでちょっと手もブレてるんですけど、本当にわたしの撮った最後の清志郎さんですね。ちなみに(わたしの展示の中で)どれが好きですか?
─ え!?
選んでください。
─ (熟考して)ぼくはこのポスターにもなっている写真が、子どものころに見た「ソウルマン」な忌野清志郎さんのイメージそのものですね。
このジャラジャラ感も最高ですよね。
─ このスーツに襟の大きいシャツに、アイシャドウばちっと決めて。グラマラスというか。こういうイメージとテレビに出ている時の素の感じのギャップがすごいイメージですね。
卑下するわけではないけれど、わたしは清志郎さんとお仕事を一緒にしていたとはおこがましくて言えないんですよね。ただ撮らせてもらっていたというだけ。ポートレイトではないし、ライブオンリーなので。(渋谷)すばるくんとかだとポートレイトをずっと撮っているので、一緒に仕事してるって感覚もあるんですけど、清志郎さんは「忌野清志郎を撮ってた」っていう、少しミーハーです。わたしミーハー心がすごく薄い人なので、いい意味で。ライブで撮らなくていい瞬間に一緒に歌っていたのは清志郎さんくらいです。わたし、撮っている時は音が聴こえないんですけど、『多摩蘭坂』とかステージ前で泣きながら歌いながら撮ってたりとか。『スローバラード』とかもボロ泣きしながら、ね。どこかお客さん気分で撮ってたのは清志郎さんくらいじゃないかな、未だに。
─ なるほど。
こう客観的に展示を見ると面白いですね。古いポジフィルムは発色が悪いので、今回は気持ち(彩度を)上げてます。細かいことを言うとあれですけど、ライブなのでアンバーが掛かってることが多いんですね。ほんのちょっとですけど締める黒にバイオレットを入れて彩度も上げてます。黒がギュっと締まってないと嫌で、搬入の前日に全部プリントし直すっていう 笑。
─ 仰ってましたね 笑。
わたしの師匠が50台半ばなんですけど、清志郎さんとよく仕事をしていたのはそのくらいの世代の方なんですよね。わたしは清志郎さんを撮り始めたのが28~29歳。後期の清志郎さんスタッフとしては少し若くて撮らせてもらえたんですね。普段、仕事で撮った人を誰かに言いたいみたいなことは無いんですけど、清志郎さんは「撮らせてもらっていたんだよ〜」って自慢したくなる方で。そしてだからこその恩返しです。皆さんが見たことがないカットが今回も結構あるので、それをファンのみんなに見せてあげたいんです。だから喜んでくれるのは清志郎さんへの恩返しかなって思います。
─ はい。見たかったものがたくさんあると思います。あと、緑のスーツの写真もとても発色が綺麗ですよね。昨日あの写真がプリントされたTシャツを渋谷さんにも着ていただいたんですが。これと有賀さんの鯉のぼりを持った写真のTシャツですね。
すばるくんに似合いそうだなって。特に鯉のぼり 笑。
─ 全種類を楽屋に持っていって「どれがいいですか?」って伺った際に、渋谷さんは「え~彩子さんに選んでほしい」って仰ってましたから 笑。
面白いよね、すばるくん 笑。素敵なんです。
西村彩子
Saiko Nishimura
1998年より、タレント・ミュージシャンを中心にポートレート・ライブ・映画スチールなど、幅広いジャンルを撮影。
2000年前後の音楽シーンでは、音楽雑誌を中心に数多くのミュージシャンを撮影。ライブ撮影では小さな箱物から、globeドームツアーやGLAY・EXPO幕張20万人オフィシャル、HelloProject全国野外ライブ写真集、GACKT韓国公演など大きな箱まで、年間100本を超えてのライブ撮影をする。
表情豊かな写心を得意とし、近年はポートレートをメインとしているが、年間を通して田原俊彦、渋谷すばる、朝倉さやのライブツアーなど撮影をし、被写体にじっくり向き合っている。
忌野清志郎ライブは2003年日比谷野音から2008年武道館での完全復活祭までを撮影。
2015年公開の『忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー The FILM #1~入門編~』のポスターメインビジュアルになる。
1998年 写真家・木村直軌氏に師事
2003年 個人事務所 SELF:PSY’S(セルフサイズ)を立ち上げる
2023年 SELF:PSY’S大鹿村スタジオ(長野県)開設
主な出版物 二宮和也写真集、藤本美貴写真集、花より男子final写真集、海猿写真集、ヤメゴクフォトムック、高橋一生フォトムック、など